ハズビン・ホテルにハマって声優を調べた人を沼に引きずりこむ記事|6人×10曲のブロードウェイとかガイド

ハズビン・ホテル、最高ですよね。曲が良すぎて、サウンドトラックを何周もしている方、私だけではないのではないでしょうか。

私は最初からおかしいと思ってたんですよ。「アニメ声優にしては歌がうますぎないかこの人たち」って。その違和感の正体はキャストをちゃんと調べたらすぐに判明しました。中の人たちが異常に豪華なんです。

ブロードウェイの主役級、アメリカで一番格上の演劇賞「トニー賞」にノミネートされた俳優、ディズニー映画で伝説のヴィラン曲を歌い上げた人、超有名ミュージカルの初代主演を張った人…。みんなアニメ声優の顔の裏にミュージカル畑で本職を持っていました。どうりで歌うますぎなはずですね。

この記事は、ハズビン・ホテルの曲が刺さった人へ、声優陣の代表的なブロードウェイ・ナンバーを6人ぶん紹介するものです(一部ブロードウェイじゃないやつもありますが)。全部YouTubeで観られるので、聴き比べてもらえると楽しいと思います!

目次

ハズビン・ホテルって何?

念のため、作品そのものの説明も少しだけ。

ハズビン・ホテルは、2024年からAmazonプライム・ビデオで配信されているアニメです。原作・監督・主題歌制作は、YouTube出身のアニメーター、ヴィヴ・メドラーノ(Vivziepop)。

舞台は地獄。主人公は、地獄の王ルシファーの娘、チャーリー(Charlie Morningstar)。地獄は人口過密が深刻で、定期的に天国から天使が「殲滅」にやってくる、というかなりハードな世界です。「悪魔は更生できない」という地獄のルールに反発したチャーリーが、諦めムード&曲者ぞろいの住人をリハビリして天国へ送り返すためのホテルを開く。それがハズビン・ホテルです。

1話に1〜2曲のペースで、本格的なミュージカル・ナンバーが流れます。アニメの劇中歌としては、明らかに気合の入り方が違います。ここで「ちょっと合わないかも」と離れる人がいる一方で、いったんハマるとサウンドトラックを無限ループする人が続出する作品です。

シーズン1は2024年1月配信の全8話、シーズン2は2025年配信です。

なぜハズビンにブロードウェイのスターが揃ってるのか

理由はシンプルで、原作者のヴィヴ・メドラーノが、相当なミュージカルオタクだからです。作曲を担当するサム・ハフト(Sam Haft)も舞台畑の音楽家。「歌で物語を動かす」という設計を本気でやろうとした結果、本物の舞台俳優を世界中からかき集めることになりました。

ハズビン本編で歌われていた曲と地続きで聴けるブロードウェイの曲を、以下で紹介していきます。


1. アレックス・ブライトマン(アダム / サー・ペンシャス役)

ハズビン・ホテル シーズン1の最強のゲス枠、チンコマスターのアダム(Adam)。

“Hell Is Forever”でチャーリーに向かって「お前の理想はクソだ」と歌い飛ばす悪辣さ、かと思えば意外な美声にノックアウトされた方に、まず聴いてほしい曲があるんです!!

声を担当しているのは、アレックス・ブライトマン(Alex Brightman)。アメリカで一番格上の演劇賞であるトニー賞に、それも主演で2回ノミネートされている、ブロードウェイの俳優です。

経歴をざっくり言うと、こうなります。

  • 2015年、『スクール・オブ・ロック』(School of Rock)のミュージカル版、その初演で主人公デューイ・フィン(Dewey Finn)役。映画版でジャック・ブラックが演じた破天荒おじさんを舞台でやり切って、2016年のトニー賞主演男優賞にノミネート。
  • 2019年、『ビートルジュース』(Beetlejuice)のミュージカル版で主役のビートルジュースを担当。こちらも主演で、2019年のトニー賞にノミネート。

2010年代の後半に、大規模なブロードウェイ作品で2回続けて主役を張った人。いまミュージカル俳優として、最も脂が乗っている世代の代表格と言っていいと思います。

これも聴いてほしい①:”Say My Name”(ビートルジュース)

ひとことで言うと、この曲は「悪霊と少女のビーフ(口喧嘩)」です。

『ビートルジュース』のミュージカル版は、ティム・バートンの1988年の同名映画が下敷き。「ビートルジュース」というタイトルですが、主人公はビートルジュースではなくリディア・ディーツ(Lydia Deetz)というゴス少女。彼女が引っ越し先の家で幽霊夫婦と仲良くなり、そこに「悪霊バイオエクソシスト」を名乗るビートルジュースが現れて、家中やあの世まで巻き込んで全部めちゃくちゃになる、という話です。

ブライトマンが演じるのはビートルジュース本人。彼は霊で、生きている人間に名前を3回呼んでもらわないと、この世に出てこられないルールです。だから常にリディアにすり寄って、「俺の名前を呼べ」と詰め寄ることになります。

“Say My Name” は、まさにその「名前を呼べ」と迫る、二人芝居の曲です。下手に出たかと思えば、急に低い声で脅し、最後はキレた絶叫へ。1曲のなかで、表情が3段階くらい変わります。

この曲をはじめてYouTubeで観たとき、「アダムが舞台にいる〜〜!!」と嬉しくなっちゃいました。「子どもっぽい純粋なクズさ」がまるっきり同じなんです。ぜひ聴き比べてみてほしい!

これも聴いてほしい②:”You’re In The Band”(スクール・オブ・ロック)

打って変わって、こちらは「子どもたちを巻き込むカリスマソング」。

『スクール・オブ・ロック』は、2003年の映画(ジャック・ブラック主演)のミュージカル版です。落ちぶれたロックミュージシャンのデューイ・フィンが、知人になりすまして名門小学校の代用教員にもぐり込み、優等生たちを集めてロックバンドを組み、バンド大会を目指す。作曲は、『キャッツ』『オペラ座の怪人』のアンドリュー・ロイド・ウェバーです。

ブライトマンは、その主人公デューイ・フィン役。”You’re In The Band” は、デューイが4年生のクラスで、生徒の楽器担当を即興で決めていくナンバーです。チェロを弾く子には「それを横に持てばベースだ」、ピアノの子には「おまえキーボードな」と、子どもたちのクラシックの素養を、強引にロックへ変換していきます。

“Say My Name” のゲスさ全開ぶりとは打って変わり、ここでは人を巻き込むカリスマが全開になります。

アダムの「俺が最強、俺がルール」というあの独善。その根っこに「優秀な才能を集めて軍勢にする強さ」があると考えると、アダムの中身は意外とデューイ・フィンに近いのかもしれません。

もっとブライトマンを追いたい人へ

  • 『スパマロット』(Spamalot、2023年再演)でサー・ロビン役。コメディ俳優としての器用さがわかります。
  • 『ザ・シャーク・イズ・ブロークン』(The Shark Is Broken、映画『ジョーズ』の撮影裏を描いた舞台劇)でリチャード・ドレイファス役。歌わないお芝居です。残念ながらPrime Videoが日本からは見られないですが…
  • 『ヘルヴァ・ボス』のフィザロリも担当。ハズビンと同じヴィヴ・メドラーノの作品で、まったく別の人格を演じています。
    私は↓LOOK AT THISと、2 MINUTES NOTICE が大好きです♥
    なぜキレた演技がここまでうまいのでしょうか。

サウンドトラックは『ビートルジュース』『スクール・オブ・ロック』ともに、SpotifyとApple Musicで全曲配信中。本人のInstagram(brightmansomesay)でも、ときどき歌の動画やハズビンの裏話が上がります。


2. クリスチャン・ボール(ヴォックス役)

「Stayed Gone」でアラスターと嫌味の応酬を繰り広げる、テレビが頭の悪魔、ヴォックス(Vox)。

「俺こそがメディアだ、お前は時代遅れだ」と上から煽ってくるナルシスト全開の声が好きな人へ。
(↓シーズン2の配信開始記念の特別ライブでも、美声を披露していましたね〜〜!!)

声を担当しているのは、クリスチャン・ボール(Christian Borle)。トニー賞を2回受賞している、ブロードウェイの大物です。それも演技賞で2回。ノミネートではなく受賞です。

↓ざっくり経歴

2012年、『ピーター・アンド・ザ・スターキャッチャー』(Peter and the Starcatcher)でブラック・スタッシュ役。トニー賞助演男優賞を受賞。これは『ピーター・パン』の前日譚にあたる作品で、のちにフック船長になる海賊を演じています。

2015年、『サムシング・ロッテン』(Something Rotten!)で、なんとウィリアム・シェイクスピア役。ロックスターのように扱われる中世の劇作家、という強烈な役どころで、トニー賞助演男優賞をふたたび受賞。

ほかにも初代キャストを多数務めていて、ブロードウェイ業界の人なら誰もが顔を知っている、というレベルの俳優です。

これも聴いてほしい①:”Don’t Say Yes Until I Finish Talking”(スマッシュ)

“Don’t Say Yes Until I Finish Talking” は「権力者が部下に不機嫌をぶちまける、独裁ソング」です。

テレビドラマ『スマッシュ』(Smash)のなかで歌われた曲。ブロードウェイで新作ミュージカル『ボムシェル』(マリリン・モンローの伝記もの)を作ろうとする人々を描いた連続ドラマで、その劇中劇『ボムシェル』のナンバーとして存在します。作詞作曲は、『ヘアスプレー』のコンビ、マーク・シャイマンとスコット・ウィットマン。

ボールはドラマの中で作曲家トム・レヴィット(Tom Levitt)を演じていて、この曲の場面では、出演予定だった俳優の代役として「ハリウッドの映画会社の重役」ダリル・ザナック(Darryl Zanuck)を演じます。歌の中身は、ザナックが部下たちに、「あの小娘め調子に乗りおって」的にマリリン・モンローへの不満をまくし立てる独唱です。

この曲をはじめて聴いたとき、一瞬で「ヴォックスだ〜〜!!!」と思いました。

脚本上の役どころはまったく違うのに、声の芯にいる「権力にあぐらをかいた中年男」は、ヴォックスとそっくり。スタジオの重役と、地獄のテレビ王。並べて聴くと、ボールの引き出しの強さがよく見えてきます。

▶ スマッシュを観る:Amazon Prime
購入 or レンタルしかないのが残念ですが…
日本語字幕もバッチリ、名曲揃いなので、ぜひ見てみてください!

これも聴いてほしい②:”Hard to Be the Bard”(サムシング・ロッテン)

トニー賞を実際に受賞した曲もご紹介です。

『サムシング・ロッテン』は、シェイクスピア全盛期のイギリスを舞台に、世界で初めてミュージカルを発明しようとする兄弟を描いたコメディです。ボールはこの作品でシェイクスピアを演じ、トニー賞を受賞しました。

“Hard to Be the Bard” は、そのシェイクスピアが「つらいわ〜、天才もつらいわ〜」と自慢する独唱ナンバー。ロックスター扱いされる劇作家、という設定そのものが、一種ヴォックス的ですね。「自分はスターだ、みんな俺を見ろ」というあのノリです。

もっとボールを追いたい人へ

  • 『ピーター・アンド・ザ・スターキャッチャー』のブラック・スタッシュ役。フック船長になる前の、若き海賊。
  • 『キューティ・ブロンド』(Legally Blonde)のエメット役。
  • 『サム・ライク・イット・ホット』(Some Like It Hot)のジョー役。こちらはトニー賞主演男優賞にノミネート。

『スマッシュ』はSpotifyで、両シーズンのキャストレコーディングが配信中。『サムシング・ロッテン』『ピーター・アンド・ザ・スターキャッチャー』のサウンドトラックも各種配信があります。


3.【特別編】アミール・タライ(アラスター役)

ハズビン人気No.1キャラと言って差し支えないアラスター(Alastor)、ラジオの悪魔。
↑ではシーズン2の”Don’t you forget”の収録シーンを貼ってみました。舞台裏の発信が多くて嬉しいですね!

声を担当するアミール・タライ(Amir Talai)は、ここまで紹介してきた俳優たちと比べると経歴が少し異色です。

ほかの俳優は「ブロードウェイで活躍していた人が、ハズビンに引っ張られてきた」。でもタライは「アメリカ各地の地方公演で長年キャリアを積んできた人が、ハズビンを経由して、2025年10月にブロードウェイ正式デビュー」という、逆ルートを歩みました。

ハズビンに呼ばれたきっかけは、1本の動画でした。

これも聴いてほしい:”You’re Never Fully Dressed Without a Smile”(アニー)

ひとことで言うと、この1本は「アラスターという役を生んだ、運命の動画」です。

2018年、ロサンゼルスのハリウッド・ボウル(野外の大型劇場)で、ミュージカル『アニー』(Annie)の特別公演がありました。1977年初演のクラシック作品で、孤児院の少女アニーが大富豪に引き取られて幸せをつかむ物語です。

タライはこの『アニー』に、ラジオアナウンサーのバート・ヒーリー(Bert Healy)役で出演しました。劇中ラジオ番組の司会者で、明るく大げさなキャラクターです。

ステージで歌った “You’re Never Fully Dressed Without a Smile” は、そのラジオ番組のなかで歌われる陽気なナンバー。1930年代風のスウィングジャズで、能天気な歌詞を、バート・ヒーリーが大仰なアナウンサー声で歌い上げます。

この映像が、YouTubeに違法アップロード。それを偶然観たのが、ハズビン・ホテルの原作者ヴィヴ・メドラーノです。そして「これがアラスターだ」と確信し、まったく無名だったタライをオーディションに呼びました。

私もこの動画を再生してみて、10秒で鳥肌が立ちました。1930年代風の不気味な明るさ、ラジオ的な節回し、その奥にある昏さ。アラスターの全要素がここに揃っているんです。メドラーノが一発で確信した気持ちが、手に取るようにわかります。

ブロードウェイ正式デビューは、ハズビンそのもの

タライはその後、ハズビン・ホテル本編で大きな成功を収めました。そして2025年10月20日、ハズビンの単発スペシャル公演「Hazbin Hotel: Live on Broadway」で、ついにブロードウェイの劇場、マジェスティック・シアターの舞台に立ちます。これが彼のブロードウェイ正式デビューになりました。

↑ヴォックス役のクリスチャン・ボールと”Stayed Gone”を歌うタライです。
さすがラジオデーモン、生でよくこれだけ口が回りますよね〜。

普通の俳優は「ブロードウェイからハズビンへ」。でもタライは「ハズビンからブロードウェイ」。本人はインタビューで、「夢が叶った日に、何度も泣いた」と語っています。

正直に書いておくと、タライにはほかの5人のような「これが代表曲」と言える1曲がありません。地方公演が中心のキャリアなので、今のところご紹介できるほど歌唱動画も多くはないのです。でも “You’re Never Fully Dressed Without a Smile” の1本だけは、絶対に観てほしいです。アラスターの原型がここにあります。


4. キース・デイヴィッド(ハスク役)

ハズビンのバーカウンター担当、寡黙でハスキーな声のおじさん、ハスク(Husk)。

“Loser, Baby”でのエンジェル・ダストとのデュエットはマジで何十回聴いたかわかりません。ぶっきらぼうなのにどこか優しい、あの魅惑の低音が好きな人へ。

声を担当しているのは、キース・デイヴィッド(Keith David)。声の仕事のキャリアが30年以上ある、超のつくベテランです。

これも聴いてほしい:”Friends on the Other Side”(プリンセスと魔法のキス)

ディズニー史上最高にかっこいいヴィラン曲です。(異論は認める)

2009年のディズニーアニメ映画『プリンセスと魔法のキス』(The Princess and the Frog)。そのヴィランである、ブードゥー使いのドクター・ファシリエ(Dr. Facilier)。蛇腹のシルクハットをかぶり、骸骨と影を従えているキャラクターです。

デイヴィッドは、ファシリエの声を担当しました。”Friends on the Other Side” は、ファシリエの持ち歌です。ニューオーリンズのジャズとブードゥー音楽を混ぜ合わせた、スタイリッシュな曲。作曲はランディ・ニューマン。

イントロが鳴った瞬間、私は「この人ハスクやったんかい!!」となりました。ハスクの「諦めの混じった低音」と、ファシリエ博士の「邪悪なのに艶っぽい誘惑の声」。温度はぜんぜん違うのに、根っこの声が完全に同じなんです。

ディズニーアニメのヴィラン曲なので、知らないうちにすでに何回も聴いたことがある人も多いはず。「あーーー、あの声!」と、すぐ気づけると思います。

キース・デイヴィッドは、本物のブロードウェイ俳優です

デイヴィッドは、1992年のブロードウェイ・ミュージカル『ジェリーズ・ラスト・ジャム』(Jelly’s Last Jam)で、チムニー・マン(煙突男)役を演じ、トニー賞助演男優賞にノミネートされています。

これはジャズの先駆者ジェリー・ロール・モートンの伝記ミュージカルで、デイヴィッド演じるチムニー・マンは「死後に主人公の人生を振り返らせる、影の語り部」。低音の語り、踊り、歌をすべて担当する大役でした。

ディズニー映画と、ブロードウェイ。その両方の世界で、ヴィランや語り部という「物語の影」を任されてきた、声の重鎮なわけです。

探したんですが、『ジェリーズ・ラスト・ジャム』は1992年の作品で、まとまった歌唱映像はほぼ手に入りませんでした。デイヴィッドの歌をいま聴くなら、まずは “Friends on the Other Side” 一択かなと思います。

サウンドトラック・配信

  • “Friends on the Other Side” は『プリンセスと魔法のキス』のサウンドトラックに収録。各種配信あり。
  • 『ジェリーズ・ラスト・ジャム』のオリジナル・キャスト・アルバムもApple Musicなどで聴けますが、1992年作品なので、見つからない場合もあります。

5. エリカ・ヘニングセン(チャーリー役)

↑”Happy Day In Hell”のライブ版。歌唱は0:40ごろからです。

ハズビン・ホテルの主人公、チャーリー・モーニングスター(Charlie Morningstar)。地獄を救うことを、何があっても諦めない透明で真っ直ぐな歌声が印象的ですよね。ディズニープリンセスのような可憐な声で”F●ck”だの”Sh●t”だのを連発するので、私は最初笑いが止まりませんでした。

声を担当しているのは、エリカ・ヘニングセン(Erika Henningsen)。2018年にブロードウェイで上演されたミュージカル版『ミーン・ガールズ』(Mean Girls)で、主人公ケイディ・ヘロン(Cady Heron)を演じた人です。

これも聴いてほしい:”It Roars”(ミーン・ガールズ)

「新しい世界に踏み出す少女の、希望と不安がまざったオープニング曲」です。

2004年のティナ・フェイ脚本の『ミーン・ガールズ』は、リンジー・ローハンやレイチェル・マクアダムスが出演したカルト的人気を誇る映画です。そのミュージカル版が、2018年にブロードウェイで初演されました。映画のティナ・フェイ本人が脚本を書き直し、夫のジェフ・リッチモンドが作曲しています。

主人公のケイディ・ヘロンは、ケニアで両親に育てられたために、学校というものに通ったことがない少女。アメリカの高校に転校した初日、人間社会の暗黙のルールに圧倒されます。

“It Roars” は、ケイディが高校という新しい世界に足を踏み入れるときに歌うオープニングナンバー。歌詞は、高校の派閥争いを、アフリカのサバンナの生態系に重ねています。皮肉と希望が同居した曲です。

サビを聞くと、やっぱりチャーリーの顔が浮かびました。「自分を信じて、新しい世界に踏み出す少女」。ヘニングセンはそれを、ブロードウェイの高校とハズビン・ホテルの地獄で、2回演じていることになります。

もっとエリカ・ヘニングセンを追いたい人へ

『ミーン・ガールズ』のミュージカルには、ケイディの曲がほかにもあります。”Stupid With Love” は、ケイディが好きな男の子を意識して歌う、コミカルなラブソング。これも大好きです。「まぁ今に見てなさいよ」と明るく前のめりに、したたかに歌い上げる空気感がチャーリーとオーバーラップします。ぜひ聴いてほしい!

ヘニングセンはその後、2020年のブロードウェイ・ミュージカル『フライング・オーバー・サンセット』(Flying Over Sunset)にも出演。歌唱力にさらに磨きをかけて、今も第一線で活動中です。

サウンドトラックはSpotify、Apple Musicなどで配信中。ミュージカル版を基にした映画『ミーン・ガールズ』(2024年公開)と聴き比べてみるのも楽しいです。


6. ジェレミー・ジョーダン(ルシファー役)

最後は、シーズン1の最終話で爆発的に登場した、チャーリーの父、ルシファー・モーニングスター(Lucifer Morningstar)。

「More Than Anything」で、娘チャーリーに向かって「俺はお前のことを誰よりも愛している」と、震える高音で歌い上げる。あの父娘デュエットで泣いた人へ。

声を担当しているのは、ジェレミー・ジョーダン(Jeremy Jordan)。ブロードウェイの、押しも押されもせぬ実力派です。

主な実績を挙げると、2012年、ディズニーが製作したミュージカル『ニュージーズ』(Newsies)で、主人公ジャック・ケリー(Jack Kelly)役。トニー賞主演男優賞と、グラミー賞にノミネートされました。ほかにも『ボニー・アンド・クライド』(Bonnie & Clyde)でクライド・バロウ役、テレビドラマ『スマッシュ』のシーズン2にも出演しています。

2012年の『ニュージーズ』以来、「ブロードウェイの主役級でありながら、テレビでも歌える人」というポジションを、長くキープしてきた俳優です。

これも聴いてほしい:”Santa Fe”(ニュージーズ)

「ここではないどこかへ行きたい、という叶わない夢の歌」です。

『ニュージーズ』は、1899年にニューヨークの新聞売りの少年たちが実際に起こしたストライキを題材にした、ディズニー製作のミュージカル。元は1992年の実写映画ですが、興行的には失敗。その後、2012年にブロードウェイのミュージカルとして作り直され、こちらは大ヒットしました。

主人公のジャック・ケリーは、ローワー・マンハッタンの寄宿舎に暮らす、孤児の新聞売りのリーダー。17歳です。

“Santa Fe” は、ジャックが、行ったこともない西部の街サンタフェに憧れて、「いつかここを出て、サンタフェへ行くんだ」と歌う独唱。叶わない夢、現実から逃げ出したい衝動、それでも諦めきれない希望。そのすべてが詰まった、ブロードウェイ屈指の名曲です。

最後のロングトーンで、私は不覚にも泣きそうになりました。

ハズビンの「More Than Anything」で、ルシファーが震える高音で歌うところがありますよね。あの「届かない感情を、声に乗せる技術」。それはまさに、20代のジョーダンが “Santa Fe” で見せていた技そのものなんです。

夢を追っていた青年が、12年の時を経て、夢を諦めた父親になり、今度は娘に向かって歌っている。そう考えると、「More Than Anything」が二重にも三重にも重く響いてきます。

これも聴いてほしい②:”Broadway, Here I Come!”(スマッシュ)

こちらは、ジョーダンがテレビドラマ『スマッシュ』のシーズン2で歌った曲。「ブロードウェイ、いま俺が行くぞ」という、ど真ん中の野心ソングです。

夢を追う若者の声を歌わせたら、ジョーダンに勝てる人はそうそういません。ハズビンに来る前の、キャリアの絶頂期に歌っていた曲なので、ルシファーという声のルーツがよくわかります。

もっとジョーダンを追いたい人へ

  • 『ボニー・アンド・クライド』のクライド・バロウ役。アウトローの青年のヴォーカルが堪能できます。
  • 本人の公式YouTubeチャンネルもあり、ピアノの弾き語り動画が多数あります。

『ニュージーズ』のサウンドトラックはSpotifyなどで配信中。2017年に舞台版を映像化したバージョンは、Disney+で観られます。


というわけで、ハズビンの音楽は本気でした

6人ぶん紹介してきましたが、最後に、共通して言えることをひとつ。

ハズビン・ホテルの歌が「上手すぎる」のは、やっぱり気のせいではありませんでした。本気のブロードウェイ俳優を、世界中から集めて作っている。原作者ヴィヴ・メドラーノの音楽への執着と、無名の俳優を動画1本で見抜く目。その2つがあって初めて、ハズビン・ホテルの音楽は成立しています。

この記事で紹介した曲を、プレイリスト風に並べておきます。ハズビンのサウンドトラックを聴き終えたあとの、次の燃料にどうぞ。

  1. “Say My Name” / “You’re In The Band”(アレックス・ブライトマン)
  2. “Don’t Say Yes Until I Finish Talking” / “Hard to Be the Bard”(クリスチャン・ボール)
  3. “You’re Never Fully Dressed Without a Smile”(アミール・タライ)
  4. “Friends on the Other Side”(キース・デイヴィッド)
  5. “It Roars”(エリカ・ヘニングセン)
  6. “Santa Fe” / “Broadway, Here I Come!”(ジェレミー・ジョーダン)

そして、もし「次は舞台のほうも観てみたい」と思ったら。『ニュージーズ』は2017年の映像版がDisney+にあって、入門にちょうどいいです。『ビートルジュース』は、北米でツアー公演が回っています。『ミーン・ガールズ』は、ミュージカル版を基にした2024年の映画版が配信中です。

ここまで読んでくれて、ありがとうございました。あなたの「ハズビン2周目」が、もう一歩深い沼に踏み込むきっかけになっていたら、嬉しいです。

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